ごあいさつ

<企画にあたって>

『鎌倉巡空』に参加する作家は、鎌倉で暮らし、あるいは鎌倉に特別な想いをよせている人たちである。たとえば建長寺の凛とした空気に惹かれて、毎日散歩する作家もいるくらいだ。彼らは、そもそも空間に強い関心をもち、寺院と話したがっていた。なので、作家と寺院が対話するプロセスを経て現れる作品を寺院空間に展示するという試みは、奇抜でもなく無理強いでもなく、至極自然な成り行きで作家たちに受け入れられた。
作家たちと寺院側との対話はもう始まっている。御本尊を参拝しに訪れる人たちにとって、そこがどのような空間であることが望ましいと考えるか、宗派やその歴史性からも寺院の考え方はさまざまに異なる。また、ものを創る作家には、空間の存在感を認識する特別なセンサーのようなものが備わっていて、そこがどのような空間であることが望ましいのか、言葉にしなくてもカタチとして現すことができる。
だからこそ、作家が寺院と対話し、なにが生まれていくのか、あるいはなにを生みだすことができなかったのか、すべてが込みで『鎌倉巡空』になる。現代の作品がお寺にあるということ。そこで感じるのは空間の調和であるか異化であるか。寺院を訪れることで日常の雑事から一時離れ、言葉にならない大切な感覚をもちかえる人々、あるいは見事な紅葉の訪れを予感し、秋の空気に和む人々の気持ちの片隅に、なにか圧倒的な存在感と出会った喜びをもちかえってもらうことができるのか。一方、作家たちには、決して美術作品としての価値が守られる保証がない空間で生み出すカタチがどうみられるのか真剣勝負し、また、寺院の場の力を得て新たな境地で創作活動することを期待している。
私たちの暮らしの中になじんだ風景であり、かつ、毎日大勢の観光客が訪れる名刹五山の場の力を借りて、作家と寺院と作品のつながりを感じることができる展覧会のカタチが『鎌倉巡空』である。

(『鎌倉巡空』キュレーション担当/ 松尾子水樹)